アスベスト問題とはいったいなんだったのか?利用の歴史や問題点を解説
今更聞けない!アスベスト問題とはなんなのか?
一時期、メディアでも話題となった「アスベスト問題」とはいったい何だったのでしょうか。この記事では、アスベストについての基礎的な知識について、詳細に解説します。
アスベストとは?利用の歴史と問題点、アスベストの処分について詳しく解説
アスベストは、人類の歴史の中で長く利用されてきた物質です。しかし、メディアでも多く報道されてきたように、アスベストは「問題」を抱えていました。さて、アスベストの持つ「問題」とは何だったのでしょうか。物質としてのアスベストの特徴とその歴史、そしてアスベストが自分の建物に利用されていた場合についても、この記事で解説していきます。
アスベストとはそもそも何か?歴史の中でどのように利用されてきたか?
アスベストは、「石綿」とも呼ばれる物質です。これは、天然の鉱石の形で採取されるもので、蛇紋石や角閃石が変形した物質です。繊維状の物質であり、この繊維は、一本あたり0.02~0.35μmと、ヒトの髪の毛のおよそ5,000分の1という細い繊維です。この繊維状物質でできたアスベストは古来から人々の生活に活用されてきました。古代エジプトではミイラを包むための布として使われたほか、古代ローマではランプの芯として使われていました。中国でも、ヨーロッパからの貢物の中に含まれていたアスベストを火浣布という名前で扱っていたことがわかっているほか、日本の「竹取物語」に登場する、「火にくべても燃えない火鼠の皮衣」は、このアスベストであったのではないかという指摘もあります。20世紀から、建物などの断熱材・防火剤、そして摩擦を受ける機械の部品などに大量に使用されることが多くなりました。日本でも使用されており、日本国内においては、北海道、北上山地、阿武隈山地、秩父山地などの産地で算出しており、戦中を通して戦後も操業が続いていました。アスベスト(石綿)の用途としては、たとえば各建築物・船舶や鉄道車両などにおいては、防火・防音・断熱材として広範囲に使用されてきました。また、機械の絶縁材料、自動車や鉄道車両のブレーキパッド、クラッチ板、屋根瓦や石膏ボード、水道用パッキン、シーリング材などの素材として使用されてきました。珍しいところでは、旧ソ連の宇宙船の帰還船部分で断熱材に使われたこともあります。戦後、日本で多くの住宅が作られてきましたが、これらの建物では防音・防火・断熱材などの目的で、非常に広い範囲でアスベストが使用されてきました。現在でも、解体工事において解体される建物の多くでアスベストが確認されています。というのも、一時期に多くの建物が建てられたため、それらの建物の劣化や、住んでいた人々の高齢化、空き家の増加もまた同様の時期に訪れているという状況です。後ほど詳しく解説しますが、こうしたアスベストは、現在は法の規制があり、法規制に従って適切に処分するよう定められています。そのため、解体工事の際には、アスベストの撤去・運送・処分の費用が別途見積もりの詳細に加えられているのが一般的です。
アスベストはいったい何が問題だったのか?
アスベストは非常に古くから、多くの目的で使われてきた素材でしたが、やがてこのアスベストというものに対して問題が指摘されてきました。最初に問題が提起されたのは1938年のドイツであったとされています。当時のドイツの新聞で、アスベストと肺がんについての関係について公表されました。ドイツは当時ナチスの政権であり、ナチス・ドイツはアスベスト工場への換気装置の導入と、労働者への補償を義務付けました。しかしながら、当時のナチス時代の研究については、第二次世界大戦後は公表されることなく、黙殺されていました。その後、1964年には空気中のアスベストが人体に有害であるとする論文が後悔され、1973年にはアスベストの製造者責任が認定、訴訟が各地で起こりました。日本では1975年に吹き付けアスベストの使用が禁止され、1985年には、アメリカでのアスベストに関する訴訟が3万件に達しました。日本ではその後、2004年にアスベストを1%以上含む製品の出荷が原則禁止された他、大気汚染防止法により、工場・事業所からの排出発生規制が行われました。また、アスベストが飛散するという特性を持っていることから、飛散性のアスベストの廃棄物は、一般の産業廃棄物よりもより厳重な管理が必要となるとされ、「特別管理産業廃棄物」の指定を受けました。2005年には、これらアスベストの健康障害防止対策の充実を図るために、石綿障害予防規則が施行されました。アスベストが原因で発症するとされる病気については、現在厚生労働省にて周知が図られており、肺線維症が代表的なものとされています。アスベスト粉じんに曝露された場合に、肺が線維化してしまう病気のことを特に石綿(アスベスト)肺と呼ぶことがあります。次にアスベストが原因で起こる病気としては肺がんが挙げられます。まだアスベストと肺がんの関係については、まだ詳細に解明されてはいませんが、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の物理的刺激によって、肺がんが発生するとされています。これは、肺細胞に取り込まれたアスベストを、細胞は異物として排除しようとするものの、それを消化できなかったことによって起こるとされています。アスベストに曝露されてから肺がんとなるまでには、15~40年という非常に長い潜伏期間があるとされています。もう一つ挙げられる病気としては、悪性中皮腫が挙げられます。若い時期にアスベストを吸い込んだ方に多く発症するとされる病気で、肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓および大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍です。この悪性中皮腫の潜伏期間は20~50年とされています。アスベストによって引き起こされるこれらの障害については、治療には外科治療のほか、抗がん剤治療、放射線治療などが状況によって選択されます。どの程度のアスベストを吸い込んだ場合に、先に挙げたような病気が発生するのかということについて、短期間・低濃度の曝露で発がん性に影響するのかについては、まだ厳密には判明していません。しかしながら、相関関係については明らかに認められているという状況です。
もし所有している建物にアスベストが使われていた場合は?
アスベストによる発病というのは、実際のところアスベストの採取現場や、アスベストを使った製品を製造する会社の従業員などに発病することが多いとされています。たとえば所有している建物にアスベストが使用されていたとしても、日常的に高濃度のアスベストが空気中に散布されているという状況は想定しにくいでしょう。ですので、所有している建物に住んでいるという場合でも、生活の中でアスベストを意識する必要はほとんどありません。しかしながら、注意するべき状況というものがあります。それは、建物を解体するときです。建物を解体するときには、アスベストを使用していない建物であったとしても多量の粉じんが発生しますが、ことアスベストの使われている建物であれば、その断熱材や構造材にアスベストが使用されているケースがあり、これらの吹付け材を剥がすときや破壊するときに、空気中にアスベストが撒き散らされるケースがあります。事実、2011年に多くの建物が倒壊した東日本大震災などの、建物が破壊されたときには、多くのアスベストが空気中に散布された、とされています。そのため、解体工事を依頼するときには、アスベストが使用されているかどうかをオーナーさんが把握している必要があります。自分の所有する建物にアスベストが使われているかどうかを知るためには、建物の設計図や契約書面の中に、素材としてアスベストが記載されているかどうかがまずひとつの判断材料となります。もし、建設当初の設計書などの書面で確認できない場合には、建築を請け負った工務店などに問い合わせる必要があります。また、リフォームや増改築をしたことがあるという場合には、その際の契約書面に記載されていることがあります。リフォームや増改築の経験があれば、そのときの契約書面まで合わせて確認する必要があるということです。もしその中で、アスベストの使用が確認された場合には、解体工事の際にアスベストが適切に処分される必要があります。
まとめ
一時期、メディアでも多く取り上げられたアスベストについて、この記事で解説いたしました。アスベストとはそもそも何で、どのような問題があったのかについて、正しく理解し、自分の所有する建物にアスベストが使われていた場合には、適切に処分することを考えましょう。
2019.8.29